大槻能楽堂
自主公演能 能の魅力を探るシリーズ 『大槻文藏と読み解く 能の世界』10月公演
2023/10/28
浦田保親師の菅丞相がすばらしかった。気品のある中にも怨念が漏れ出てくる前場の菅丞相の亡霊は、そのリアルな佇まいが胸に迫った。一点、後場では勢いのある怒れる「鬼=神」となって、二人の龍神と共に舞台を駆け巡る。師のシャープな所作は隅々まで計算された緻密さで、美しい。セリフ、謡共に前場と後場との差を際立たせていて、非常に説得力のある菅丞相像を造型されていた。歌舞伎の『菅原伝授手習鑑』での菅丞相とは違った菅丞相に出会った気がした。作品としても構成が整っていて、能の初見者にも訴える魅力があったと思う。
大槻文蔵師と三浦裕子氏の対談は、「夢幻能」と「現実能」との違いが話の中心で、一般観客にはかなり退屈だったと思う。研究者よりも(できるなら)実際の演者のお話が直接聞けるようにする方が、より能の「舞台」の面白さを訴えることができるのではないか。